11月中に額装しておかなくてはならない版画が3点あり、いつも額装をお願いする店に行ってきました。
日本で展示用に額装する時にはどうするのか知りませんが、オーストラリアの私のまわりのアーティスト達は、ひとつひとつ額装屋さんに額装してもらっています。だいたいの場合は、額装屋の店先で、額やマットをその都度選んでオーダーメイド、あるいは、既に額装屋で組み立ててある額のなかから選んで、マットだけ選んでセミオーダーにするのが普通では無いかと思います。
デパートなどで額だけ選んで自分で額装する、ということも出来なくはありませんが、その場合、きれいに裏側を処理したり、壁にかけるための紐やワイヤーをつけるのが、ちょっと大変かも知れません。私も、小さいものは自分で額装をしたこともありますが、額を探したり、自分でマットを切ったり、紐をつけたりする時間や手間、費用を考えると、安い額装屋に頼んだほうが、仕上がりもずっときれいという結論に。で、いろいろ試行錯誤して、頼み甲斐があって、値段も安いということで、数年前から、額装といえば、今日行った店に頼んでいます。
ちょっと話はそれますが、日本の、特にレディーメードの額は、裏がベニヤのような板でできていて、フックで開け閉めするようになっているものも多いかと思いますが、これは、こちらの額装屋では不評です。どの店に見せても、ベニヤではかびが出て作品が傷むと、嫌な顔をします。代わりにこちらで裏に使うのは、中性紙の厚紙のようなもので、これを、裏にかぶせて、太めのテープできっちりと止めてしまいます。
今日額装屋に持って行ったのは、3点中2点が、ハーネミューレの厚めの紙に刷ったもの。残りが、日本で買った薄い和紙に刷ったものです。最初の予定では、車で送ってくれるという人がいたので、3点を大きなルーズリーフのポケットのようなもの(スリーブと言います)に入れて、そのポケットだけを持って行ったのですが、その車の人の体調が今ひとつだったため、ひとりで電車で行かれるから、と言って帰ってもらいました。電車の中は、朝のラッシュアワーも過ぎていたので、がらがらに空いている座席にスリーブを置いていきました。これが和紙に刷った方の版画です。
ハーネミューレの方は、同じ紙に刷った作品や、似たようなヨーロッパの紙に刷ったものを、もう何度も注文しているので、その要領で、比較的スムーズに額もマットも決まりました。問題は和紙の作品。
難題だろうなあ、というのは、行く前から分っていました。
具体的にどう額装したいのか、とイメージはなかったものの、私の作品がよく見えるだけではなく、紫とも灰色ともいえる微妙な色合いの紙の良さ、軽やかさを、最大限にいかした額装にしたいと思っていました。
しかし、額装屋で今日担当してくれた人が提案してくれる額装の仕方や、額の雰囲気、色が、全然しっくりときません。難しい顔をしている私に、根気よくつきあってくれたのは、とても有り難かったですが、どの案でも、和紙の軽さや美しさが死んでいます。和紙をヒヨコに例えると、ふわふわのヒヨコを、猛獣を入れるような檻のなかに閉じ込めようとしているような提案ばかり。
そのうち、この人には、この紙がよく分らないのだ、ということに気がつきました。額装屋としての腕が悪いのではなく、こういう紙をどう扱っていいかが分らない。というより、極薄い手漉きの和紙のような紙は、西洋式のどっしりとした感じのする紙とは別の見せ方をすることもできる、ということに気がついていない、と言った方がいいかもしれません。
それに気づいたので、今日ここで頑張っても無駄だと思い、2作品分だけ額装を注文して、和紙のはそのまま持って帰ってきました。
さて、この作品の額装はどうしたらいいでしょう?近所に中国系の人が経営している額装屋があるので、そこに持って行けば、和紙のような紙の額装にも慣れているかもしれませんが、私としては、作品自体が東洋的でクラシックな感じなので、額装は、できれば、反対にコンテンポラリーな今風の仕上がりにしたい、と思っています。それがあの額装屋でできるのかどうか。
いっそ、額装屋ではなくて、まず、自分で紙を制作しているペーパー・アーティストに、制作した紙をどのように展示しているのか意見を聞いてみる、というのも手かなあ、という気もします。
重たい気持ちで乗った帰りの電車、地下を通っているときに、避難用の出口のサインが見えました。私も、早く、出口を見つけたいです。